Hoch-Zeiten

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 今回のコンポジションセミナーのテーマは「日曜日」の最終場面「Hoch-Zeiten」の合唱部分でした。この作品のドイツ初演の演奏を聴きに行ったのですが、この作品についての概要などもその時のレポート(上記関連記事)に書いてありますのでそちらもお読み下さい。
 この作品の合唱部分はオーケストラ部分と同様に全体が5つのグループに分けられて空間的に離れて配置され、クリック・トラックを使ってそれぞれのグループが同時に異なるテンポで演奏し、アッチェレランドやリタルダンドなどもそれぞれのグループで独自に行われるという極めて複雑な作品です。
 
 この作品を説明するために、シュトックハウゼンは例年と同じように、「光」の3声のスーパー・フォーミュラの説明から始め、そこから「日曜日」全体の和声、および時間的構成がどのように決定されるか、そしてさらにそこからこの「Hoch-Zeiten」の全体の構造が導き出されるか、ということをテキストに転載されたカラフルな譜例やスケッチの自筆譜などを駆使して説明していきます。この時点で「Hoch-Zeiten」の各部分の演奏時間、それぞれのパートの中心音などの大まかな構成が確定しているのですが、その各部分をどのようなテンポで演奏するのかというのを決めていきます。まずこの作品中で使用する7つのテンポを(恣意的に)選び、コーラスの5つの各グループがこの7つのテンポをどの順序で演奏するかということをセリーとして構成します。ひとつのグループで同じテンポの部分が2回以上繰り返して演奏されることはありませんし、グループ間でも同時に同じテンポを演奏することがないように、そしてそれぞれのグループのテンポの変化が独自の特徴を持つように、グラフでスケッチを書いたりしながら調節します。そしていくつかの部分にリタルダンドなどの連続的なテンポ変化も加えて、さらに構成を豊かにしていきます。
 現時点で確定されている各部分の演奏時間とテンポから、それぞれの部分が何拍で構成されるかを割り算で導き出し、つぎはその部分をさらに細かい部分に分けていくのですが、それを何拍ずつのグループにするか(それぞれのグループを1〜7拍と制限しました)というのをやはりセリーとして書き出し、プロポーションのバランスを取りながら決定していきます。そしてさらにその小部分のピッチ変化をどれだけ行うか、というのを小部分の拍数に応じて設定し、部分が変わるたびにその設定を変化させていくことで、作品の後半へ行くに従ってこの変化数が増大していくように、これもセリーの表を作ってコントロールしますが、ここでの膨大に数字が記されたスケッチはまるで50年代のセリーを全面的に使用していた時代の作品のそれのようでとても興味深かったです。もちろんさらに細かい音楽事象も詳細にスケッチを書いていって決定していくのですが、そのプロセスの多くの箇所にセリエルな思考が垣間見られ、シュトックハウゼンの若き日からの一貫した作曲姿勢が浮かび上がってきます。
 さらに興味深いのが、シュトックハウゼンがこのように説明している順序でまさに作曲しているということです。どのような演奏形態を取るか、ということを決めて基本となる作曲素材(ここではフォーミュラ)を決めてしまうと、あとは大きな構造からより細かい構造へとどんどん決定していくだけで作曲が非常に効率良く進められていくのです。もちろんそれぞれの過程で選択をしなければならなかったり、新しいアイデアが必要だったりすることがあるのですが、変化や多様性を好むシュトックハウゼンの嗜好から、こうしたこともちょっとした閃きで解決しているように思えます。そして驚くべきことに、あらゆる作品の作曲過程は全体から部分へ進んでいく、ということ以外は演奏形態を最大限に生かすような独自の方法で進んでいくので、決してルーチン・ワークやワン・パターンに陥ることがないのです。
 一部に誤解されているように、セリーが作曲者を縛ってしまうのでなく、複雑さと多様性を生み出す「道具」として作曲者が自由自在に扱うことができるのだ、ということを、シュトックハウゼンのこうした作曲過程から深く理解することが出来ます。
 
 ところで、今回のレクチャーで面白く感じたのが、スコアに清書するための譜割をどのようにするか、ということまで細かく説明していたことです。たしかにこの作品は5つのテンポが同時に演奏されるのですから、上手く譜割を考えないと非常に見づらく、そして書きづらい楽譜になってしまいます。シュトックハウゼンはいくつか存在する全てのグループの拍が同期するポイントがページの冒頭にくるようにするなど、綿密な計画と文字通りの数字の計算によって複雑なりにも非常に見通しの良い譜割を実現しました。こうしたことは楽曲のアナリーゼとは全く関係ありませんが、こうした「おまけ」的なところも含めて作曲にまつわる全ての詳細を明らかにしていくシュトックハウゼンの非常にオープンな姿勢が反映しています。
 数年前に「少年の歌」の膨大なスケッチの全てのファクシミリを一冊の分厚い本にまとめて出版したり、ほとんど全ての彼の作品のスコアやCDを彼自身が運営するシュトックハウゼン出版から体系的に発売するなど、一人の作曲活動にまつわるすべてをここまで集中的にオープンにしている作曲家は世界中のどこを探しても彼以外にいないでしょう。
 
 彼は近作の録音を編集するにあたってCDに収録するためのステレオ・ミックスに加えて、マルチ・トラックによるミックスも同時に制作しています。
 シュトックハウゼンの諸作品は作品ごとに非常な特殊な演奏形態を必要とするために再演するのが非常に大変なのですが、マルチ・トラックのテープの再生による上演であれば、それよりもはるかに容易に、そして演奏者のその時の調子に左右されない完璧な演奏を再現することができます。
 「日曜日」の現在までに初演、録音された4つの部分はすべてマルチ・トラックでも演奏できるように編集されていますし、「Hoch-Zeiten」は5チャンネルで再生できるようにミックスされ、今回のコンポジション・セミナーでもこのテープが大活躍しました。
 マルチ・トラックによるテープはステレオ・ミックスよりもはるかにクリアーな音像を再現することができますし、シュトックハウゼンの作品の大きな特徴である「空間音楽」的な要素を実演に近い形で再現することも出来ます。
 そして今回のようなアナリーゼの資料として使用する場合には、例えば第2ソプラノだけを聞いてみましょう、というような事態にも簡単に対応することが出来るので、作品の特定の細部だけを聞くことによる作品へのより深い理解を得ることも出来ます。
 
 毎年、このコンポジション・セミナーのためにテキストが配付されるのですが、これが中々内容が充実していて、年々テキストの厚さも増していっているように感じます(今回は72ページという大作でした)。紙は上質なものを使用しほとんどのページがカラー印刷、もちろんスケッチ、譜例が満載です。、余ったテキストはシュトックハウゼン出版から購入することも可能なので、興味のある方は一読をお薦めします。

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