例によって今年も多くの管楽器のための作品が演奏されました。
講師による演奏会で演奏されたのは以下のとおりです。
QUITT for alto flute, clarinet, piccolo trumpet
PIETÀ for flugelhorn, soprano and electronic music
ARIES for trumpet and electronic music
Xi Version for flute
BASEETSU for basset-horn
AVE for basset-horn and alto flute
実質的に「家族」であるスージーとカティンカのために書かれたフルートやクラリネット、バセットホルンのための作品の微分音や気息音などの微細な音色の効果や美しさについては何度も触れているので繰り返しませんが、やはり感動したのがこの2人のアンサンブルによるAVEの演奏です。
あまりにも美しい瞬間の多い「月曜日」の中のハイライトともいえるこの場面の演奏の様子は5枚組の「月曜日」全曲CDブックレットのカラー写真から伺うことが出来ますが、その幻想的な世界がまさに目の前のステージに飛び出してきたような印象を受けます。この写真におさめられた「月曜日」全曲の初演は20年近く前ですが、衣装を着てステージに立つと遠目に見る分には2人ともその時点から全く時間が進んでいないかのような印象を受けます。微分音や多彩な特殊奏法を使うだけでなくダンサーのように動き回りながらの演奏が至難な作品なのに、演奏の難しさを全く感じさせず当たり前のように軽々と演奏してしまう様子にはただただ唖然とするしかありません。
この鉄壁アンサンブルの2人にトランペットのマルコ・ブラウを加えたトリオで演奏されたQUITTの世界初演も非常に印象的でした。これは3色の絡み合う曲線などから構成されるシュトックハウゼン自身のドローイングによる大まかな演奏指示をもとに演奏者が作曲者とともに詳細な演奏内容を決定していく作品ですが、作品としては地味な印象でしたが、3人の演奏する微分音が狭い音域で絡み合い移ろってゆく複雑かつ繊細な音響は多くの聴衆の心を捉えていました。早期のCD化が望まれます。
マルコ・ブラウをフィーチャーした作品としてPIETÀとARIESが演奏されましたがどちらの演奏もここ数年の彼の進境が伺える内容でした。ほとんどカリスマ化しているマルクス・シュトックハウゼンの超人的なトランペット演奏にプレッシャーを感じてか、以前は検討しているものの萎縮していた感の強かった彼の演奏も、今回は影の努力の成果があってか非常に自信に満ち溢れたものへと成長していました。一昔前のTVゲームの音楽を思わせるような電子音が複雑に絡み合い、その電子音のテープとクリックなしで同期して音程の跳躍の多いトランペット・パートを演奏しなくてはならないARIESの演奏は非常に力強いものでしたが、マルコの紹介でゲストとして出演したソプラノのバーバラ・ハンニガンとの共演によるPIETÀの演奏は感動的なものでした。
重厚な電子音のドローンの上で繰り広げられるフリューゲル・ホルンとソプラノのデュオはピタリと息が合い、4分音、ペダルトーン、様々な特殊唱法などもごく自然に音楽に溶け込み30分弱の長い演奏時間が至福に感じられるような美しい演奏でした。数年前、同じマルコ・ブラウ(その時はソプラノなしの版)の演奏で聴いた同じ曲では寝そうになってしまったのが嘘のようです。
ちなみにマルコの金管楽器のマスター・クラスから2人の受講生が受講生コンサートに出演し、それぞれARIESとIN FREUNDSCHAFTを演奏しました。ARIESを演奏したアメリカ人のトランペット奏者はかなり緊張していたようで、健闘しているものの演奏はまだまだという感じでしたが、もう一人のドイツ人の受講生によって演奏されたIN FREUNDSCHAFTの演奏は非常に貴重でした。演奏自体はさほど印象に残るものではなかったのですが、様々な楽器のための版の存在するこの曲のホルン版を聴けた、ということが大きかったです。楽器を上下左右に激しく動かしながら(この動きは音楽の構造と厳密に結びついています)演奏するのは楽器によっては非常に大変なのですが(逆にそこが予測しないユーモラスな効果を生むことがあります)、この作品の始めの方にある、楽器に溜まったつばを抜くアクションがケッサクでした。ホルンですのでつばを抜く時は当然楽器をぐるぐる回す訳で、そのアクションが作品の一部に加わって何とも「さむ〜い」ユーモアを醸し出していました。