EUROPA-GRUSS, STOP und START


 今年の講習会では、比較的大編成なアンサンブル作品が2曲演奏されました。こうしたアンサンブルの作品が演奏できるようになった背景として、受講生の充実が挙げられます。この講習会が始まって5回目になりますが、何度も繰り返し参加している受講生も増えてきて、シュトックハウゼン作品の正統的な演奏解釈も多くの受講生に浸透してきたので、受講生と講師の混成によるアンサンブルを組織して作品を演奏する事が可能になってきたのです。
 今回演奏されたアンサンブル作品はEUROPA-GRUSSとSTOP und STARTの2曲ですが、どちらも複数の管楽器とシンセサイザーによる作品です。
 
 EUROPA-GRUSSはシュトックハウゼン流のファンファーレの試みとでもいうような作品で、突き抜けるような管楽器とシンセサイザーの音色がとても美しいです。他の多くのシュトックハウゼン作品と同様に、この作品も1度聴いただけで作品の本当の面白さを理解できた訳ではありませんが、その後発売されたこの作品のCDを何度も聴く内にこの作品の素晴らしさを少しずつ感じる事が出来るようになりました。
 この作品は「光」のスーパー・フォーミュラの「水曜日」の部分のエーファ・フォーミュラのパートと、ミヒャエル、ルツィファーの3つのフォーミュラの核セリーを組み合わせ10分以上に引き伸ばしたものをもとに作曲しているので、音楽素材としては持続音が中心となりますが、この事によって管楽器とシンセサイザーの組み合わさった絶妙な音色のハーモニーをじっくりと楽しむ事が出来ます。一見地味に感じられるこの持続音もよく耳を澄ますと常に音色やリズムなどの細かい変化による「ゆらぎ」が施されていて、音の内部へと聞き入れば聞き入るほど作品の深遠な魅力が聴いている人の前へと顕れていく仕掛けになっています。「しゃべくり漫才」などと揶揄される華麗なパッセージがパラパラ垂れ流しにされるある種の現代音楽にみられる空虚さとは対極にあたる、音楽の本質のみを五線紙に書き記した真摯な作品であると言えるでしょう。
 音響的にはそれほど効果はありませんが、この曲の終わりの方で演奏者が楽器を演奏しながらぐるぐる回ったりするのはなかなか面白い効果があったことも一応補足しておきます。
 
 引き続いてSTOP und STARTが演奏されました。この作品は60年代に作曲されたSTOPの改作版で、原曲では演奏者の裁量に委ねられていた部分を完全に確定された楽譜にしたものです。「ルフラン」も作曲者自身のリアリゼイションによる3種類の確定されたヴァージョンを3xRefrain 2000として発表し直したり、本来は演奏者がステージ上で「視線をさまよさせながら」ヴァージョンをリアルタイムで作っていくピアノ曲XIを、現在ではあらかじめ演奏用楽譜を作り上げ完全にさらいこんでから本番にかけることを推奨したりと、作品のもつ不確定性よりも演奏の完全性の方を優先する傾向がみられます。
 この作品では数個の音のグループの不規則な(あるいは規則的な)リズムによる繰り返しや持続音の音色的、微分音的な変化が、リゲティの音楽を思い起こしたりもさせますが、こうしたイベントが、タイトルが示すように、様々なメロディーの断片(曲の最後の方には民謡風の旋律すら表れます)や特種奏法を駆使した多彩なノイズ的な音響によって中断される事により、音楽的にとても多彩なものとなっています。こうしたアイデアは「光」のそれぞれのフォルメルの特定の場所で様々なノイズや数を数えるイベントなど(有名なアイーンス、ツヴァーイ、という奴です)が挿入され、それ自身もメロディーの一部として機能する、という所に発展していくのですが、作曲時期の離れた2つの作品のそうした関連性に気付いた時、シュトックハウゼンの作曲に対する首尾一貫した姿勢というものを改めて感じずにはいられませんでした。
 STOP und STARTに話を戻しますが、シンセサイザー奏者を5人使ったこのヴァージョンでは原曲以上の多彩な音色を生み出す事に成功しています。生楽器では難しい音色の微妙な変化もシンセサイザーならフィルターをフェーダーやペダルを使って調節することで簡単に且つ自由自在に実現できますから当然といえば当然なのですが、「いかにも電子楽器を使っています」的な空虚なテクノロジーのデモンストレーションとは無縁の卓越した楽器の扱いには毎度ながら感嘆させられます。
 そして、これはEUROPA-GRUSSにも言える事なのですが、管楽器とシンセサイザーの音色が自然に、そして見事に溶け合っている、ということに感動しました。シュトックハウゼンにとってシンセサイザーは特殊でもなんでもない(むしろ不可欠な)楽器ですから、管楽器とシンセサイザーのアンサンブルは、生楽器と電子音の対立などといった図式ではなく、弦楽器と管楽器が一緒に演奏するのと同じ感覚でごく自然に組み合わされているので、両者が見事に一つのハーモニーへと統合され、得も言われぬ美しくてクリアーな音色を生み出しているのです。
 シンセサイザーはしばしば生楽器の代用として使われる事もありますが、シュトックハウゼンはシンセサイザーの本来のコンセプトである音色の合成(シンセサイズ)に演奏者とともに積極的に関わる事により広大な音色のキャンパスを手に入れ、作曲の本質的な要素として取り入れられた音色作曲を実現するために今や必要不可欠な楽器として機能するようになっているのです。

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