シュトックハウゼン講習会の講師紹介

 シュトックハウゼン講習会では、シュトックハウゼン自身とともに彼の作品を数多く演奏し、それぞれの作品に精通した演奏家が講師として参加し、演奏家として登録されている受講生にレッスンをしたり、演奏会で演奏をしたりします。
 
 シュトックハウゼンの近年録音されたCDを細かくチェックしている人なら、これらの講師の名前はお馴染みの人ばかりですが、そうでない人にとっては必ずしも聞き慣れた名前ばかりではないので、ここで簡単に紹介しておきましょう
 



アンドレアス・ベトガー Andreas Boettger(打楽器)

 「月曜日」や「火曜日」の初演に参加。「コンタクテ」や「ツィクルス」といった古典的な作品はもちろん、近作のアンサンブル用の作品で打楽器を要する作品では常に彼が演奏している。打楽器奏者としての素晴らしいスキルに似合わないちょっとまぬけな雰囲気が魅力。
 

エレン・コルヴァー Ellen Corver(ピアノ)

 アコースティック・ピアノのための作品の演奏においてはシュトックハウゼンから現在もっとも厚い信頼を受けている。ピアノ曲I〜XIVのすべての作品の演奏法に関してシュトックハウゼン自身から指導を受けていて、その演奏はStockhausen Verlagから3枚組のCDとして発売されている(全集56)。このCDは演奏だけでなく録音の素晴らしさも特筆すべき素場らしい内容。Sepp Grotenhuisというピアニストと共に「マントラ」をシュトックハウゼンのサウンド・プロジェクションの下に録音したCDがTMDというレーベルから発売されているが、こちらも素晴らしい内容。実際に見ると、CDのブックレットの写真よりは少しふっくらしているかも。
 

ニコラス・イシャーウッド Nicholas Isherwood(バス)

 シュトックハウゼンが現在かかわりを持っている歌手の中では最も信頼を受けているバス歌手。「月曜日」「火曜日」「金曜日」におけるルツィファー役はもちろん、「木曜日」や「土曜日」からの幾つかの作品や「シリウス」のバス・パートもシュトックハウゼンの監修のもとで演奏している。「私は空を散歩する」の熱演を収めた録音がMODEレーベルから発売されているほか、ケント・ナガノ指揮によるヴァレーズ作品集(ERATO)などシュトックハウゼン以外の現代音楽の分野でも数多くの録音があり、日本でもこれらのCDは比較的容易に手に入れる事ができる。細川俊夫氏のオペラ「リアの物語」に出演するために数年前に来日したこともあり、日本の文化にもそれなりの知識がある。美女に弱いのが唯一の弱点か・・・
 

アラン・ルアフィ Alain Louafi(ダンサー)

 モーリス・ベジャールとの関わりも深い卓越した舞踏家。世界中の様々な舞踏やジェスチャーなどに造詣が深い。シュトックハウゼンとの関係は「祈り」の初演以来ずっと続いているが、「木曜日」や「月曜日」でも彼を想定したと思われるパートがあり、事実彼がその部分を演じている。ジェスチャーと音楽のセリエルな結合という前人未到の領域をシュトックハウゼンとともに開拓した成果は非常に重要である。なにげに冗談を言っている。
 

カティンカ・パスフェーア Kathinka Pasveer(フルート)

 クラリネット奏者のスザンヌ・スティーヴンスと共にシュトックハウゼンの公私双方に渡る重要なパートナー。シュトックハウゼンとの関係は「土曜日」の初演以来であるが、「光」の着想した時には全く想定されていなかったフルートのパートがこの時期以来突如重要になってきて「月曜日」「金曜日」の多くの部分や数えきれない程沢山の小品が彼女を想定して作曲されている。フルート奏者として素晴らしいだけでなく、「祈り」のマイムをアラン・ルアフィと共に演じたり、彼女の歌声が「火曜日」「水曜日」「金曜日」の電子音楽で使われるなど、多方面にその才能を発揮している。Stockhausen Verlagの細々とした事務仕事も演奏活動の合間にこなしているようで、本当に働き者である。演奏中に聞く事にできる彼女の「かわいい」声とは裏腹に普段の喋り声は意外と低く、ちゃきちゃきとした感じ。
 

アントニオ・ペレス・アベリャン Antonio Perez Abellan(シンセサイザー)

 ジーモン・シュトックハウゼンの後継であるが、独自の個性も持ったシンセサイザー奏者。様々なアンサンブル作品のシンセパートはもちろん、「コンタクテ」や「ルツィファーの夢」でアコースティック・ピアノの素晴らしい演奏を披露することもあるそうだ(私は未聴)。シンセサイザーがメインとなる近作としてはピアノ曲XVI, XVIIがあるが、この双方の作品はシュトックハウゼン講習会で彼によって初演された。シュトックハウゼンとの協力関係は10年に満たないがもはや彼の存在は不可欠なものとなっている。見た目の通り結構気さくな感じ。
 

スザンヌ・スティーヴンス Suzanne Stephens(クラリネット)

 シュトックハウゼンとの協力関係も4半世紀に渡っている極めて重要なパートナー。彼女のために40曲以上ものクラリネット、バス・クラリネット、バセット・ホルンのための作品が作曲されていて、もちろん「光」の中のすべてのバセット・ホルンのパートは彼女が演奏することを想定して作曲されている。とりわけ「月曜日」「木曜日」「金曜日」ではバセット・ホルンに大きな役割が与えられている。単に作曲されたものを演奏するという関係ではなく、微分音や特殊奏法の開発に関してシュトックハウゼンへ刺激的なフィードバックを返すなど実に創造的な協力関係となっている。オペラ歌手やダンサーのように動きながら演奏する、というスタイルは彼女の存在と協力が不可欠であったし、「光」において楽器奏者がオペラの登場人物として演奏しながら演じるスタイルももちろんここからの発展である、という意味でも彼女の業績は計り知れない。非常に穏やかな性格で、喋り方も非常におっとりとしている。
 

マルクス・シュトックハウゼン Markus Stockhausen(トランペット)

 シュトックハウゼンの沢山の子供の中でも特に才能に満ちあふれた息子。「作曲家シュトックハウゼンの息子の」という肩書きはもはや不要であり、ジャズ・トランペッターとしての活動も有名である(ECMレーベルなどからCDも発売されている)。シュトックハウゼンの作品では「シリウス」「木曜日」「土曜日」「火曜日」「友情に(トランペット版)」などの初演を行っているが、どれも超絶技巧を要する難曲であり、彼無しにはこれらの名曲は生まれ得なかったであろう。特に「木曜日」の第2幕「ミヒャエルの旅」は実質的にトランペット協奏曲となっていると共に、このシーンの主人公としてミヒャエルを演じながらトランペットを演奏する(ちなみにこの幕では歌手は一人も登場しない)。演奏中の集中力には物凄い気迫を感じるが、基本的な性格はとても明るくめちゃめちゃフレンドリー。
 

アンジェラ・トゥンスタル Angela Tunstall(ソプラノ)

 シュトックハウゼンとの関わりは1989年に「モメンテ」を演奏したことに始まる。この後も何度かこの大作をシュトックハウゼンの指揮の下で歌っているが、その成果を評価され「金曜日」の初演でエーファ役を歌う。彼女だけはステージから降りた時のキャラクターを知らないのだが、多分舞台上での印象と同じく、清楚な人なのだと思う。
 

 今年度の講師は以上の9人と作曲講座を担当するシュトックハウゼン自身の計10人となるのですが、この他にもスタッフとして多くの人が関わっているので、この中でもっとも重要だと思われる人物を簡単に紹介しましょう。


 

ブライアン・ウォルフ Brian Wolf

 肩書きはサウンド・プロジェクション・アシスタント。シュトックハウゼンは客席中央のミキサーの前に座って最終的なサウンドの調整をしているが、ブライアンは常にその左後ろに控えていて、シュトックハウゼンの補佐的な作業を行っている。今年は3回のスチューデント・コンサートの内の2回のサウンド・プロジェクションも任された。数年前にマウリツィオ・ポリーニが来日してシュトックハウゼン・プロをやった時に「少年の歌」と「コンタクテ」も演奏されたが、その時のサウンド・プロジェクションはブライアンがやったとのこと。
 

デットロフ・シュヴェールトフェーガー Dettloff Schwerdtfeger

 シュトックハウゼン講習会の運営や事務的な面などに関する責任者。といっても結構若々しい青年で、いかつい名前の印象とはまるっきり正反対のむしろ気弱そうに見えるキャラクターがなかなか親しみやすい。とはいえ、ほとんど献身的と言える彼の働きぶりには本当に頭が下がるし(リリー、サンドラという二人の女性スタッフと協力して、車での受講生のホテルへの送り迎えまでやっている)、特に私のスチューデント・コンサートにおける楽器の調達に関しては多忙の中本当にお世話になった。
 

 と、こういった感じで様々な講師、スタッフの協力によってこの講習会が成り立っている訳ですが、会場の提供や食事の面での地元の方々の尽力も非常に大きく、これらの積み重ねが講習会の高度で専門的な内容にもかかわらず親密な雰囲気を失わない秘訣になっているのだと思います。続きを読む

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