月曜日


 講習会の最終日には「月曜日」から抜粋した作品が3曲演奏されました。
 
 まず始めに「月曜日」の上演前にロビーで流される電子音楽「月曜日の迎え」が演奏されました。この作品はスージーのバセットホルンによる演奏の多重録音が時間が止まりそうな位極端に速度を遅められて再生されますが、もともとの演奏で半音を何分割もするような微分音が多用されているため、この停止寸前の時間感覚がさらに強調されます。例の如く、聴衆を取り囲むように配置された8チャンネルのスピーカーからこの神秘的な音楽が再生されると、まるで胎内の赤ん坊のようになった不思議な感覚が喚起されました。
 微分音から構成されるハーモニーが本当に少しずつ上がったり下がったりすることによって独特のうねりや浮遊感が生まれますが、始まって15分くらいした所で突然表れるぴちゃぴちゃという水の音の録音の挿入が大きく音楽の流れを変えます。この水の音は23分頃に再び表れますが、今度は楽器に息を吹き込むノイズ音による応答があります。この音は水の音を模しているように聞こえるので、水の音とバセットホルンの音色が関連付けられる様なとても面白い効果を上げています。
 時間の止まった様な非常に緩慢な動きと突然の音色の交替、このコントラストがこの作品の面白さの一つでありますが、30分以上というこの作品の長大な演奏時間の中で、完全に日常の喧噪は消えてしまいました。
 
 「月曜の迎え」の演奏は客席、ステージとも照明は最小限に絞られたほとんど真っ暗な状態で行われましたが、そのまま引き続き行われる「ルツィファーの激怒」のためにステージの照明が明るくなり、この曲の冒頭の電子音が鳴り始めて少ししたあたりからなにやら怪しい(笑)雰囲気が漂って来ます。
 ステージ後方の仕切りからニコラス・イシャーウッド(バス独唱)とアラン・ルアフィ(マイム)の二人が演じる「ルツィポリープ」が登場しますが、とにかく何もかもがひたすら「下品なギャグ」に満ち溢れています。
 その二人に向かってシンセサイザーを演奏するアントニオ・ペレス・アベリャンが変てこりんなアクション付きで「るぅつぃぃぽぉり〜〜〜ぷ」などとひっくり返りそうな声で叫ぶあたりで、客席はもう大爆笑です。
 そこからはニコラスとアランによるアクロバティックな動きと2重唱が次から次へとくり出されますが、動きも歌唱(特殊唱法が多用されている)も恐ろしく大変なはずなのにそれらが「本当に」下品なギャグで埋め尽くされていて、その演奏の困難さを全く感じさせないところは驚異的でした。
 私はこの曲のスコアを見たことはないのですが、ルツィポリープの演奏パートにはある程度演奏者の裁量でしゃべる台詞を変更出来るようです。
 実際この日に演奏されたものと、最近CDになってでた演奏(全集CD 63)の間にはかなりの違いがあります。
 キュルテンでの演奏では、ライヴならではの「特別な」ギャグが用意されていて、「カルマ、、、カール・マルクス、、、カーマスートラ、、、」などと素晴らしく詩的な(笑)韻のようなダジャレをどさくさにまぎれて言ってみたり、二人が曲の最後で棺桶に閉じ込められるシーンでは日本語を含む様々な言葉で二人で下らない事を延々と喋り続けたりと(日本語で「くさい!」と言ったかと思えばイタリア語で「In questa tomba oscura(この暗き墓の内に)」とベートーヴェンの有名な歌曲の一節を歌いだすなど)、かぶりつきの席で聴いていた私は笑い過ぎて涙が出るほどでした。。。
 それと同時に、宇宙の神秘的な働きからこのような下品なギャグまで等しく芸術の素材として取り扱うシュトックハウゼンの懐の広さにも感銘を受けました。
 
 休憩を挟んで、今度は「月曜日」の最終場面の「パイドパイパー」が演奏されましたが、今度は「ルツィファーの激怒」とは一転して神秘的な雰囲気が漂います。
 この作品はカティンカによるフルート独奏(アルト・フルート、ピッコロ持ち替え)と2台のシンセ、一人の打楽器奏者とテープによる作品ですが、「月曜日」のミラノ・スカラ座での初演でも使われたメルヘンチックな衣装を着て、ステージ中を所狭しと軽やかに動き回りながら、様々な特殊奏法を駆使した至難なパッセージを楽々と演奏してしまうカティンカの超人的な技量には本当に驚かされました。
 舞台後方から次々と楽器を持ち替えて突然登場したり隠れたりする打楽器奏者のアンドレアスも脇役ながらなかなかいい味を出していました。
 楽器による演奏と同時に再生されるテープからは「サウンド・シーン」と呼ばれるさまざまな日常の音の断片の録音が次から次へと流れますが、このサウンド・シーンと生楽器、あるいは生楽器の間でもフルートとシンセ、というような様々な組み合わせで音色や音形の模倣や変形、応答などが複雑に行われていて、さらにこの音楽的な運動性とカティンカの軽やかな動きも絡まり合っているという感じで、今回の講習会の最後を飾るに相応しい充実した作品=演奏でした。
 それにしても、この作品の新しい録音(全集CD 63 この講習会での演奏の直後に録音されました)の仕上がりは非常に素晴らしく、先程述べたサウンド・シーンと生楽器、あるいは生楽器どうしの音色などの連関が非常に鮮明に捉えられています。こうした特徴は古くは「コンタクテ」に始まる様々な作品に見られますが、ここにその極度に洗練された姿を見る事が出来ます。「月曜日」の全曲のCDでこの作品を知っているつもりの方でも、この新しい録音を聴く事によって、それまでうまく録音に収めきれていなかったこの作品の魅力を再発見する事は間違いないと思います。続きを読む

目次に戻る