August 07, 2006
KLANG:4時間目「天国への扉」
KLANG4時間目は「天国への扉 HIMMELS-TÜR」という意味あり気なタイトルのついた作品ですが、ほとんどの場面で打楽器奏者がドアを木のバチで叩き続けるだけという極めて異色な作品になっています。
この作品のために特別にあしらえられた観音開きのドアは、左右それぞれ縦方向に6層に分かれ、それぞれ異なる木の素材で出来ているので、叩く場所を上下変化させることによって6種類の音色が生じる事になります。普通に叩くだけでなく、ばちでドアを擦るなどのヴァリエーションもありますし、打楽器奏者の足音によるリズムも加えられるので(床にも板が敷いてあります)、非常に限定された音色のパレットの中で音色やピッチの細かい変化がつくように考えられています。
始めは断片的に演奏されるリズムが、徐々に細かく複雑なものへと発展していく構成になっていますが、ドアを叩くと同時に足音も鳴らすために視覚的な面白さもあります。ドアの低い部分を叩くために寝転がったり、両手を上に上げたまま足踏みをしながらその場で一回転したりなどユーモラスな要素もあります。
演劇的な要素も強いこの作品ですが、極めて限定された音素材(ドア)の様々な音色の可能性を実験するように演奏する様は、1つのドラの音色の可能性を究め尽くそうとする「ミクロフォニーI」を思い起こさせます。ミクロフォニーIでは多様な方法で演奏されるドラの音をフィルターなどで電気的に変形させますが、この「天国への扉」では電子変調の類は一切なく(シュトックハウゼン作品の演奏で通常行われるマイクによる増幅すら行われません)「ミクロフォニー・アコースティック版」とでも喩えたい気分になります。
ドアを叩くリズムが最高潮に複雑になった時に突然、ドアが音もなく開きます。ドアの奥には何も見えません。打楽器奏者はゆっくりとドアの向こう側へ歩いていき(この時の足音も音楽的に作曲されています)、姿が見えなくなってしばらくすると、突然舞台裏からドラやシンバルなどによる大音響のリズムが鳴り始まります(木の音色から金属の音色への移行)。さらにサイレンの音がそこに加わり(こうした音色の組み合わせはヴァレーズ作品の音響を強く意識させます)、客席に座っていた少女(4〜6歳位)がそこから歩き始めステージへ上ります。開いたままになっているドアまで進みドアの向こうの様子を訝しげに窺いますが、そのままドアの向こうへと消えていきます。この間ずっと鳴っていた打楽器とサイレンの音はだんだん弱くなり、そのままフェード・アウトしてこの作品は終わります。
タイトルから想像できるとおり「天国への扉」の向こう側は「死」を暗示するのですが、少女が感情を表に表す事なくそのドアの向こうへと行ってしまう様子は非常に詩的で感動的でした。
私はシュトックハウゼンへのおみやげとして、「世界のドア」「世界の窓」という2冊の写真集を持っていきました(この写真集は先日触れたものです)。「世界のドア」はもちろんこの「天国への扉」を意識して選んだのですが、たまたま同じ写真家による「世界の窓」が隣においてあってこちらも非常に美しい本だったのでついでにと思って持って行ったら、これが思わぬ結果を生みました。
これらの本は「天国への扉」の演奏されたコンサートの終演後に渡したのですが、「ドア本」を渡すや否や、シュトックハウゼンはいたく感動した様子で本の何ページかの写真に見入っていました。さらに「窓本」を渡すとシュトックハウゼンはさらに驚愕した様子を見せました。「私が『窓』を題材にした作品を作曲していることは話していなかったと思うのだが?!」
もちろんこれは偶然なのですが「楽園の窓」という名前の作品を作曲している、ということ、さらに「天国への階段」という作品も計画(これには女性のspecial singerが必要だと話していました)していることを教えてもらいました。
半分冗談で「きっと階段の写真集が必要だろう。」と話していましたが、これは、と心当たりがある人はシュトックハウゼンに送ってあげると喜んでもらえるのではないでしょうか?
これらの作品は当然KLANGに組み込まれると思われますが、その他「和音」をテーマにした作品、カティンカやスージーのための作品なども予定されているようです。
ちなみにこの2冊の本が気に入ったシュトックハウゼンは、その本にサインしてくれ、と私に頼みました。あまりの意外な展開に一瞬意味が分からなかったのですが、「私の」サインをその本に書いてくれ、ということでした。「書く場所がないからここに座りなさい」と例の巨大なミキサーの御大の席に座らされペンもシュトックハウゼンから借り(「シュトックハウゼンの」サインを求める受講生を待たせて)シュトックハウゼンのためにサインを書く私の姿は奇妙なものだったに違いありません。

深読みかもしれませんが、ヨハネの黙示録3章20節
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「見よ。わたしは、戸の外に立ってたたく。だれでも、わたしの声を聞いて戸をあけるなら、わたしは、彼のところに入って、彼とともに食事をし、彼もわたしとともに食事をする。」
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という聖句を連想してしまいます。
そういえば、KLANGシリーズではカティンカとスージーがまだ登場していないんですね
さなやん(りろ@涅槃) : August 7, 2006 06:09 PMシュトックハウゼンにサインをねだられた男・・・。
かっこよすぎます。
さなやんさん>
カトリックとの精神的なつながりも深いシュトックハウゼンですから、そういうことも無意識の領域では繋がっているかもしれませんね。
ちなみにこの曲も「トランス」や「ヘリコプター弦楽四重奏曲」などと同様、夢から着想したと話していました。
空の上でドアを叩き続ける夢を見てこの曲のアイデアが閃いたようです。
鈴木治行さん>
ほんと、笑っちゃいます。
だんだんシュトックハウゼンの喜びそうな「ツボ」が分かってきたのですが、「サイン書いてくれ」と言われるとは予想できなかったです。
動揺してこちらがサインもらうのを忘れてしまいました。