December 12, 2007
シュトックハウゼン旅立ちの瞬間

シュトックハウゼン長年のパートナーであるフルート奏者Kathinka Pasveer氏の書いたシュトックハウゼンの最期の模様を記したメールの存在は以前の記事でお伝えしていたかと思いますが、カティンカ本人より転載の許可をもらいましたので、日本語訳したものを以下に掲載します。
できるだけ原文に忠実にしていますが、流れを分かりやすくするため最小限の編集を行っていることをご了承下さい。([ ]内は訳者による補足)
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◆ 2007/10/9
今日は、私たち全員にとって記念すべき日でした。作曲後45年にして遂に「モメンテ」のスコアが印刷工場に送られました!私たちは、このスコアの[出版準備の]ために丸二年を費やしたのです。そして、「モメンテ」のヨーロッパ版のスコアもあと2週間で完成予定です。どちらもとても巨大で美しいスコアです(1ページ66×48cmととても大きく、特製のケースに収められます)。
「モメンテ」の出版は、シュトックハウゼンがかつて体験した中でもっとも困難な道のりでした。自筆譜をスキャンして、全て書き直すことなくコンピュータ上で訂正ができるコンピュータ時代に感謝しなくてはなりません。アントニオはこの作業をこの2年間続け、スザンヌは100ページに及ぶ演奏指示を[英語に]翻訳し、私はそれをタイプしました。
シュトックハウゼンは今、オーケストラのための「7つの星座」(来年ボローニャでモーツァルト管弦楽団によって初演されます)を作曲中で、これで12宮全てのメロディーがオーケストラで演奏できることになります[訳注]。
◆ 2007/12/8
シュトックハウゼンは、「モメンテ」が出版される前に死んでしまう訳にはいかない、といつも言っていました。先週、「モメンテ」のオリジナル版のスコアが印刷工場から届きました。ヨーロッパ版のスコアも本日到着する予定です。
シュトックハウゼンは、亡くなる日の前の晩にオーケストラ版の「双子座」の作曲を完成させ、楽譜にすべての小節番号を書き込んだ後、ベッドに入りました。翌朝7時、彼は私たちにこう言いました。「Ein ganz neuer Zeit bricht an, ich habe eine ganze neue Ebene des Atmens gefunden.(新しい時が始まった。私は全く新しい呼吸の方法を見つけたのだ。)」
彼はこの感覚に興奮して、できるだけ素早く起き上がりたい、と言いました。そして、彼が立ち上がると同時に、彼は倒れてしまいました。彼の心臓の鼓動がそこで止まったのです。この美しい体験の中で、彼は、苦しむことも病に冒されることもなく彼の肉体から離れていったのでした。何という旅立ち方なのでしょう!
彼はずっと以前から、自分がもし死んだら、死んだことを誰にも知らせずに、「光の家」と名付けられた木の[作曲]小屋で遺体を三日三晩そっと安置して欲しいと書き残していました。そこで彼は沢山の作品を作曲したのです。そして三日後に、私たちは友人や報道関係者に訃報を知らせました。
来年の初演のために委嘱された作品のすべては完成していて、作品表の最後の作品はフルートと電子音楽のための「KLANG21時間目・楽園」となりました。
[訳注]2004年に「5つの星座」というタイトルで「ティアクライス」からの5つのメロディー(乙女座〜山羊座)のオーケストラ版が作曲された。「7つの星座」はここで作曲されなかった残るメロディー(水瓶座〜蟹座)のオーケストラ版であり、この両者を組み合わせることで12のメロディーからなる「ティアクライス」のオーケストラ版が完成したことになる。
(訳・松平敬)
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明日13日はシュトックハウゼンの埋葬が行われます。
それに先立ってセレモニーが行われるようですが、日本時間では午後6時から午後9時までとなります。
スケジュールの都合さえ付けばキュルテンに行きたかったのですが、さすがに無理なので、私は、その時間に合わせて、何か追悼になることをしようと思います。
ちなみに上の写真は「天国への扉」を昨年演奏した時のリハの模様です。
シュトックハウゼンが少女にどうやって動くか説明しているところですが、扉の向こうの世界へ歩いていくようにも見えます。きっとこういう感じで天国へと旅立ったのでしょう。

お知らせいただき有難うございます。
2000余年まえのあの人の死もかくばかりかと思わせられます。
シュトックハウゼンへの感謝の気持ちを確認してはじめた追悼演奏は、素晴らしいものになりました。
ともあれまずはお礼まで。
天使が迎えに来たかのような、美しい旅立ちだったのですね。
僕がカトリックの洗礼を受けるときに、神父様から「あなたのご両親は今どこにいますか?」と訊かれ、僕は「両親は死んだのでいません」と答えたら、神父様は「・・・・・いや、とにかく生きているんですよ」と言ってくれました。
魂の不死を信じるのに、言葉は多くいらないと思いますシュトックハウゼンは、違った形の命に入り、生きて私たちと一緒にいるのだと信じています。
さなやん(りろ@涅槃) : December 13, 2007 03:09 AM中路さん>
はじめまして。
トラックバック頂いたサイトを拝見して、ある意味最も演奏困難な直観音楽の分野で長年研鑽を積まれていたことを知り、その真摯な姿勢に感銘を受けました。シュトックハウゼンも、ドイツから遠く離れた極東の地でのそうした取り組みを知って、嬉しく思っているのではないでしょうか。
そちらにコメントが付けられなかったので、こちらで失礼します。
さなやんさん>
誰かが台本を書いたのでは、と思いたくなるくらいに素晴らしい話ですが、いかにもシュトックハウゼンらしい旅立ちの方法だと思いました。
21世紀にしてこのようなピュアな精神を忘れなかった巨匠の魂は、彼の作った膨大な作品の中に行き続けるでしょう。
まっちゃん@シリウス : December 13, 2007 01:43 PMご連絡やご返事、大変有難うございました。貴重な情報を開示をしてくださったおかげで、随分と心が安らぎました。とりわけその最期の時のさま。彼らしく、感動します。
その様を人にも伝えたく、そしてわたしのシュトックハウゼン理解を示しておきたく、京都新聞に12月21日朝刊文化面に記事を載せてもらい、そこで貴兄のブログ記事を紹介させてくいただきました。ただそれはWEBには載せていないようです。京都新聞も死去の報は共同通信の情報「2001年の米中枢同時テロを「最高の芸術作品」と評して波紋を広げた」で、写真も凶悪犯に見えかねないものでした。
私の記事は「シュトックハウゼンの逝去」としたタイトルを変えられてしまいましたが、あの都ホテルでの写真を大きくして使ってくれたので見る人の印象は随分と変ると思います。メールでfax番号をお教えいただければfaxでお送りします。文章は元のものを近々ブログにupします。 有難うございました。
新聞記事でのご紹介ありがとうございました。
fax是非ともお送り頂きたいのですが、中路さんのブログからメールが出せない(biglobeの会員になる必要がある?)ので、お手数ですが以下のURLのフォームから私宛にメール送信して頂けますでしょうか?
宜しくお願いします。
http://tierkreis.web.infoseek.co.jp/mail.html
昨日、Stockhausen Concerts and Courses Kuerten 2008のリーフレットがドイツから届きました。期間は7月4日から20日まで行われます。
川崎 順哉 : April 6, 2008 09:42 AM川崎順哉様>
お知らせありがとうございます。
もちろん我が家にも届きました。
2000年以来ほとんど毎年この講習会に参加していますが、過去に参加した時の様子を以下にまとめていますのでよろしければご覧下さい。
2007年度
http://tierkreis.web.infoseek.co.jp/weblog/archives/stockhausen/aaaaaaaaaecae2007/index.html
2006年度以前はこのページの下の方をご覧下さい。
http://tierkreis.web.infoseek.co.jp/kuerten/
今年も参加予定ですが(但し仕事の都合上後半1週間のみの参加)、シュトックハウゼン本人のいない講習会の様子を想像するだけで悲しくなります。
まっちゃん@シリウス : April 6, 2008 10:50 AMまっちゃん@シリウス様
御返事ありがとうございます。2000年以降、毎年参加していらっしゃるのですね!それは快挙です。私もいつの日か参加したいと願っていますが、諸般の事情(ご理解を)で行けません。そんなこんなで、去年の12月です。
1985年1月のロンドン、バービカン・ホールでのコンサートは行きましたが、それ以降(数年前の来日コンサートも)生で聴いた事はありません。
レポートの内容は、あとからじっくりと拝読いたします。
取り敢えずお礼のメールを差し上げます。
川崎順哉
まっちゃん@シリウス様
以前、Kathinka女史からCD66番が贈られてきました。このブックレットにSony DMX100ミキサーが紹介されています。どうやら4チャンネルのソースを、タブレットで自在にコントロールできるようですが、実際に現場でご覧になりましたか?
別件ですが、ハムザ・エル・ディーンは亡くなったんですね。
川崎様>
CD66は「水曜日の迎え」ですね。
私が聴いた時点では、音像移動は(リアルタイムでのコントロールではなく)すでにミキシングされていた状態になっていたので、完成したテープを単純に再生する形の上演でした。
ハムザ・エル・ディーンはかなり昔に亡くなっていますね。
まっちゃん@シリウス : April 7, 2008 02:48 PMまっちゃん@シリウス様
リアル・タイムでの音像移動ではなかったのですね。しかし、実際にその音像移動が体験出来るという事は羨ましい限りです。CDだと2chですので、ブックレットを見ながら勝手にイメージする以外に道はありません。
ハムザ・エル・ディーンは、確か東京在住とマーク(・ナウシーフ)から聞いていました。