February 08, 2008
シュトックハウゼン最新作品表
シュトックハウゼンの公式HPに最新の作品表がアップされていますので紹介します。
以下のURLからPDFで見ることが出来ます。
http://www.stockhausen.org/stockhausen_2008_eng.pdf
2008年版の作品表なので、晩年まで作曲し続けたKLANGの最新作まできちんとのっていますし、最新作の記述に見られたいくつかの細かいミス・プリントが訂正されています(と思いながら改めてチェックすると別のミスを発見しました)。
亡くなる前の晩に完成させた「ティアクライス」オーケストラ版ですが、この形としては作品表にはのっていません。2004年にこの「ティアクライス」の5つのメロディーをオーケストラ用に編曲し「5つの星座 FÜNF STERNZEICHEN」として発表していますが、亡くなる直前に編曲したその続きの5つのメロディーは「続・5つの星座 FÜNF WEITERE STERNZEICHEN」として作品表にのっていて、この2つの作品をまとめて演奏する時に「ティアクライス」オーケストラ版として演奏するのだと思います。
ただし気になるのが、「蟹座」と「獅子座」のオーケストラ版が欠落していることです。
最後に完成させたのが双子座なので、生きていればそのままこの2つのメロディーのオーケストラ版を作ったと思うのですが、今年の「ティアクライス」オーケストラ版の初演では、そのまま完成した部分だけ演奏するのか、スケッチなどに基づいて補筆完成させたもので演奏するのかは興味があります。
もう一つ興味を引くのが「牡牛座」のファゴット・ソロ版というのが、作品表のそのすぐ下に追加されていることです。作曲は2007年ですからオーケストラ版の「ティアクライス」を作曲する過程で副次的に作曲されたのだと思いますが、「ティアクライス」の特定のメロディーだけが器楽独奏用にアレンジされた例は他にないのでどのようなリアリゼーションを施したのか極めて興味深く思います。
今までは、毎年、作品数が少しずつ増えていく作品表を見るのが楽しみだったのですが、これから先はもう新しい作品が増えることはありません。悲しいです。
まっちゃん@シリウス : February 8, 2008 02:17 PM | Stockhausen
はじめて書き込みます(昨年、シェーンベルクの歌曲のコンサートを拝聴しました)。現代音楽は素人なもので、勘違いしていたらご教示いただけますと幸いです。
随分前に「天の上を私は歩く(1972)」のLPを聴いたことがあるのですが、たしかオクターブの半音を最初の曲では1音だけ、次の曲では2音だけ、・・と使う音を増やしていき、最後の第12曲で12音がすべてそろうという作曲技法だったと記憶していますが、実際には最後の曲は普通に調性のある曲に聴こえました。このような例から、「シュトックハウゼンは調性に回帰した」と言われてしまうことがあるのでは、とふと思いました。
思い違いがあろうかと思いますが、もしご教示いただけましたら幸いです。
KJOさん>
はじめまして。昨年のコンサートにはご来場頂きありがとうございました。
さて、お尋ねの「AM HIMMEL WANDRE ICH」ですが、ご指摘のとおり、一曲ずつセリーの構成音が増えていき最後の12曲目でオクターヴの半音すべてを含むセリーが完成する構成になっています。
このセリーは、c-fis-g-e-dis-gis-cis-h-d-a-b-fというものですが、完全4度や完全5度が多く含まれていますし、例えば4曲目では冒頭のc-fis-g-eという音のみが使用されますが、これは長3和音もしくはリディア旋法を想起させます。
ご指摘の12曲目の冒頭はb-fという完全5度による持続(ただしSTIMMUNGのテクニックを使ってピッチ、音色など何かの要素が変容されます)があり、第1パートがd-a-b-f-b-fという音形をスタッカートで繰り返します。ここだけ見るとbを根音とする長三和音、もしくは長七和音を想起させるので「調性的」と思われたのだと思います。
しかし、この部分の第2パートは12音のセリーの逆行形(第1パートと重複するd-a-bを省略)→原形を演奏するので、2つのパートの総和としては、調性とは全く無関係な響きになります。
そして、もうひとつ「調性的」に聴こえる原因として、「中心音」の存在が挙げられます。例えばこの作品では曲ごとにセリーの末尾に追加されるピッチがその曲の中心音として設定され、その音が強調されるように作曲されていますが(例えば前述の12曲目ではfが中心音になります)、このことによって全12曲を俯瞰すると全曲を通して12音のセリーがゆっくりと演奏されるようなフラクタル的な効果をもたらします。
ただし、この「中心音」は調性音楽の「主音」と類似しているようですが、実際はは全く意味合いが異なり、その他の音が主音に引き寄せられるように使用されることはありません。
新ヴィーン楽派の作曲家は、調性の痕跡を感じさせないように増4度、長7度、短9度などの音程を強調し、特定の音が強調されたり、長三和音などの耳馴染みのある和音を忌避することにより、「無調」の響きを生み出し、戦後の世代にもそうした音程の嗜好が引き継がれたのですが、シュトックハウゼンは長3度、完全音程などこれらの作曲家が避けてきた音程も躊躇なく使用することによって、音程選択のヴァリエーションを増やし、楽曲構造を聴き取りやすくした(「AM HIMMEL WANDRE ICH」ではセリーの展開が容易に耳で追えます)、そしてその延長線上にフォルメル技法がある、と言えます。
まっちゃん@シリウス : February 13, 2008 07:16 PMまっちゃん様
早速の詳細な回答、ありがとうございます。なるほど、作曲家の意図が分かりました。
この終曲が変ロ長調に「聞こえる」のは事実なんです。でも、(特殊な前提を採らない限り)「だから怪しからん」という話にはなりませんよね。「聞こえる」ことよりも、「別の聴き方を探求する」ことが求められているわけですから。
>この終曲が変ロ長調に「聞こえる」のは事実なんです。でも「だから怪しからん」という話にはなりませんよね。
そうですね。
調性に似た響きがする、ということで批判することは、例えばベートーヴェンなどの古典的な曲で、連続5度があるからけしからん、と非難するようなものです。
まだ完全な作品表はできていないようですね。新作が増えることはないでしょうが、まだまだ未発表の作品は発見されるかもしてませんね。結局彼の独自の作品番号のNr.も100を超えたようですね。何を持って一つの作品というのかはいろいろな考え方があると思うけれども。
Shigeru Kan-no : February 20, 2008 06:28 PM