May 05, 2008

ツィマーマン「軍人たち」@新国立劇場

とりわけ大好きな作品という訳ではありませんが、日本国内では当分演奏を期待できない難曲ですし、これを日本のプロダクションでどれだけ仕上げられるかということにも興味があったので、聴きに行きました。
以下、メモ代わりに簡単に感想をまとめておきます。

稽古が非常に難航しているという噂話もちらほら聞こえてきたので、ともかく生演奏を体験しておこう、という程度の極めて低い期待値で会場に向かいましたが、結論から言えば予想をはるかに上回る仕上がりで、生演奏を聴く事によってこの作品が少しだけ好きになりました。

歌い手にとってはとにかく音が極端に高く極端な跳躍も多く、聴いていて可哀想になるくらいですが、かなり頑張って楽譜に書かれている事を音にしようとする努力がよく分かりました。コレペティなど音楽スタッフの苦労も忍ばれます。
この殺人的な声の扱いがこの曲を好きになれない大きな理由のひとつですが、特にテノールの扱いは歌い手として怒りすら覚えるほどの極端な高音域を要求します。ハイCを越える所はファルセットで逃げたり、健闘むなしくひっくり返ったり、一声聴いて疲労で喉がボロボロなのが分かったりという有様でしたが、これは作曲家に責任があります。その無茶なスコアをよく頑張って演奏した、と努力を讚えたいと思います。

コンタルスキーのCDの演奏で聴くと、金管の絶叫などがうるさくオーケストレーションに問題があるのかと思っていましたが、今日の演奏ではそうした印象はありませんでした。演奏に原因があったのでしょう(スコアを見た事がないので推察にすぎませんが)。
オーケストラを担当した東フィルも忙しいスケジュールの中、よくここまでまとめたと思いますが、恐る恐る弾いているような印象を受けた所もありますし、リズムがもっと軽やかに処理できればよかったのにな、と思った場面もしばしば。
大量の打楽器群は舞台裏の演奏を客席に向かったスピーカーで再生する方法をとっていましたが、ピットで演奏している楽器との音質的なかみ合わせが今一つでした。
スピーカーから出る楽器の音ばかりがクリアーに聴こえすぎたのと(音量ももう少し抑えてもよかったでしょう)、スピーカーの位置の関係上これらの楽器の音だけがピットの楽器よりも上方に聞こえたのが不自然でした(それともそういうスコアの指示なのでしょうか?)。
ティンパニのロールの音はマイクのセッティングのせいか、音質もかなり不自然な感じがしましたが、左右に分かれた複数のティンパニが対話する効果はきれいに出ていました。

シュトックハウゼン流に、ピット内の楽器も含めた全楽器の音をミキサーにまとめる方法(予算はかかります)をとった方が音像は自然に聴こえたかもしれません。

ジャズのバンダは演奏もいまひとつで、エレベの音が全体のバランスを考えると少し大き過ぎでした。
そもそも、このバンダの演奏やバランスにそれほど思い入れがないようにも思えました。

演出は黒っぽい箱形のステージで、赤、黄色など強烈な原色の衣装が鮮烈な印象を与え、その色使いで様々な人間関係を象徴するアイデアで楽しめましたが、もともと前方に軽く傾斜のあるステージ自体が、最後には大きく右に傾く大掛かりな仕掛がありました。
この斜め舞台の上方で歌っているのをみると転落しないか冷や冷やしましたが(わざと滑るような演技がさらに不安を増長させます)、無事に怪我人もなく終了。

演出は基本的に面白いと思いましたが、場面ごとに細かく幕が下りて、いちいち転換に時間がかかるのが興ざめでした。不可抗力ですが、演奏がストップしている間の転換はノイズが目立ってしまうので、それもマイナス・ポイントでした。

最後のマルチ・チャンネルによる立体的なミュージック・コンクレートの効果は美しかったです。この幕切れの音響の美しさ(そして演出との関係)には軽く感動。このこだわりで前述の楽器の音響もケアしてもらえればよりよかったのですが。

生演奏を体験して、チラシなどでの煽り文句とは裏腹に、この作品は非常に古典的な作品だな、との印象を受けました。
大編成のオケやジャズ・コンボ、ミュージック・コンクレートなどお膳立て自体が極めて困難で、演奏至難ではありますが、それが作品の新しさとは直接結びつかない、ということです。
ツィマーマンのトレードマークともいえるバッハの引用、ジャズなど様々なスタイルの音楽のコラージュは、ベルクのオペラで試みられていた事の延長に過ぎませんし、ミュージック・コンクレートの使用も少しゴージャスなSEという程度の扱いにしかすぎません(ついでに言うと、ツィマーマンの出発点であった新古典主義も、異なったスタイルの折衷、融合ですから、そういう意味で一貫性があったともいえます)。

つまり20世紀後半に作曲されてはいるものの、戦後の前衛音楽の代表的オペラというよりは、ベルクなどの戦前のオペラの成果を戦後の様式で拡大した野心作、と解釈できると思いますし、19世紀までのオペラのスタイルを結局は引きずっているということになります。

だからこの作品が古臭い、と非難したいのではなく、伝統的なオペラ制作の延長線上(長い延長線ではありますが)で上演できる作品なのだからもっと演奏されてもよいのでは、と思ったという事です。

何はともあれ、関係者の皆さまお疲れさまでした。

休憩中には某偉大なコントラバス奏者にお会いしました。新しい勤務先の名刺を頂きましたが、素晴らしいですね。

まっちゃん@シリウス : May 5, 2008 07:58 PM | 現代音楽

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コメント

こんばんは.《軍人たち》の声楽書法は、やはりダメですか(笑).(シュトルツィウス以外の)昨日の男声陣の出来は、作曲家以外の誰を責められよう、という感想を持ちました.デポルトのピーター・ホーレなど、ルール音楽祭の上演DVDではもっと安定した気迫の歌唱で(正確かどうかまでは分かりませんが、雰囲気からはそんな感じ)、よほど調子悪くなってしまったのだと思いますが….

演出についても、場面転換が長いのは事前に聞き知っていたので予期の上楽しむことができ、まずは観て満足な演目でした.最後の電子音部分は、演奏ごとにかなり印象が違いますね.

M. F. : May 6, 2008 02:39 AM

この曲のスコアは今ここにあります。この曲はヴォーカル・スコアをそこらじゅうの歌劇場の歌手に見せるとコリャだめだとみんな逃げだしてキャンセルしますね。声の極端な跳躍と変拍子がもの凄いです。超難解の音楽ですね。ピアノ譜も自分で音を取ってみましたがこれより難しいオペラのピアノ譜はまだ知りませんね。ルルとかノー是とアロンとかの「易しい」オペラの時代が懐かしいです。打楽器は30人ぐらいだと思います。全部入らないので舞台裏で演奏してマイクでピットに引っ張るのですね。

Shigeru Kan-no : May 6, 2008 05:08 AM

私も大体そんな印象でした。ただ三階正面に座っていたので、多元的な音響を体感することはできませんでした。一階にいないと分からないのではあそこでやる意味がない。演出は分かりやすいのですが、これも多元的に進行すべきなのに、一次元に一つの箱の中だけでまとめてしまっていいのかな? また、色彩でストーリーを簡略化しているのが、ベタでつまらない。普通の演出だなと思いました。遠くから見れば、同じ衣装の人の区別がつかないのも困ったものです。区別をしないという意図ではなかったはず。

そうそう私は休憩時間に、偉大で美人美男な歌手夫婦にお会いしました。

KEIZO : May 6, 2008 11:26 AM

私も明日行こうと思っていた所です。
お客さんの入りはいかがなものでした?

kaz : May 6, 2008 11:42 AM

>M.F.さん
コンタルスキーのDVDを見てすごいなと思ったのは、あの無茶なテノール・パートをガチンコで歌っている所です。
ドイツの歌手は層が厚いのでしょうか。

>Kan-noさん
打楽器は本当に多いですね。
カーテンコールでずらっと並んでいるのをみて笑ってしまいました。
でも、あそこまで人数が必要なのかは疑問です。

>KEIZO館長
3階にはスピーカーをきちんと設置してなかったのですね。
最後の場面だけですが、マルチ・チャンネルで聴けない席は使用しないくらいの思い切りがあってもいいかもしれません。

「軍人たち」で小さな場面が連なっていくのは、多元的な舞台にしていくことで舞台転換のストレスもなくなるし、音楽のコラージュと「場面」のコラージュの対応という効果もでるので、この意図は生かしてほしかったですね。

群衆をコピーのように全く同じ衣装で表現するのは最近のはやりなのでしょう。昨秋の「モーゼとアロン」は「マトリックス」の全員エージェント・スミスのような出で立ちでやはり誰が誰だか分かりませんでした。

kazさん>
意外に(?)入ってました。
ただ安い席はもうないかもしれません。
早めに確認をした方が良いかと思われます。

まっちゃん@シリウス : May 6, 2008 04:41 PM

開演前に見て回りましたが、スピーカーは一応各階(1〜4階)後方に4基ずつ設置されていた模様です.見た目はわりとちゃちで、数量的にも大丈夫かなという感じでしたが、「それにしては」音も割れずきれいに響いていたように、私の席(1階後方の、2階の被っている場所)からは聞こえました.

M. F. : May 6, 2008 09:04 PM

M.F.さん、調査報告(笑)ありがとうございました。

各階の後方にスピーカーがあったとしても、前方のスピーカーも対応した高い位置にも用意していたのでしょうか?

そうでなければ、前方と後方で音場の高さが異なる事になるので客席を取り囲む感じには聴こえないのではと思います。
ちなみに私も1階後方で聴いていました。

まっちゃん@シリウス : May 6, 2008 09:28 PM

無駄と思わせてすべてが必要。芸術とはこういうものでしょう。金がかかりますよね。Stockhausenの「光」全曲の広告は出ないですね。やっぱり予算が付かなくて無理なのかな?

Shigeru Kan-no : May 7, 2008 06:06 AM

「光」全曲演奏の話はとうの昔に話が流れていると思います。

まっちゃん@シリウス : May 7, 2008 08:26 PM

やはりね。シュトックハウゼン自身が出版社経営者としては完全な素人でしょう。だから楽譜やCDがあんなに高いのでしょう。プロだったらあの値段はいくら芸術上の理由とはいえ付けないですね。彼と芸術的に喧嘩したのがB・A・ツィンマーマン。それでここの方は好きでないのかどうかはわからないのだけれども、僕にとっては20世紀を代表する傑作と見ています。「Licht」よりも重要かも?

Shigeru Kan-no : May 8, 2008 06:08 AM

「光」全曲演奏の「言い出しっぺ」はシュトックハウゼン側ではないはずです。シュトックハウゼン側としては、無理だと思うけどやりたいならやってみれば?、くらいの期待度だったのではないでしょうか。

CDや楽譜はあの手の掛け方を考えるとむしろ良心的な価格だと思いますし、自家出版のおかげで廃盤、絶版がないのはありがたいと思います。

本文の一番上に書いていますが、「軍人たち」は個人的にはあまり好きではありません。
20世紀後半のオペラの重要作であるとは考えますが、それでもベルクやシェーンベルクのオペラよりは格下だと思います。

まっちゃん@シリウス : May 8, 2008 08:32 AM
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