June 09, 2006
パンデイロ・マスターへの道
現在のブラジル音楽界で最も重要な音楽家の一人であるマルコス・スザーノによるパンデイロの教則ヴィデオが発売されています。
「Marcos Suzano Presents パンデイロ・マスターへの道」と題されたこのDVD、映像的にはスタジオでマルコス・スザーノがパンデイロ片手に淡々と様々な奏法を説明して行くだけの単調なものですが、彼がこの小さくてシンプルな楽器からどのように多彩な音色とリズムを生み出しているかをじっくりと観察する事が出来る、彼のファンにとっては生唾ものの内容となっています。
パンデイロの基本的な奏法を説明するところから始まり、サンバなどブラジル音楽の基本的なリズムパターンの演奏法から、ドラムンベース、ファンクなど、ブラジル音楽の枠に留まらないマルクス・スザーノならではの超絶的なリズムの演奏法の秘伝に到るまでを惜しげも無く披露しています。キング・クリムゾンなどプログレのリズムに影響を受けた事などを実例を交えて説明しているところも興味深いですが、それがブラジル音楽の伝統的なリズムとどのように掛け合わされ、刺激的なリズムへと変容するかを体感できるのも面白いです。ブラジル音楽の伝統的なリズムそのものも、思っているよりもずっと多彩であることもこのDVDを見て実感する事が出来たりと、単なる楽器の教則ヴィデオの域を超えて、ブラジル音楽の深淵に触れる事が出来ます。
いきなり難しいリズムを早く叩こうと思わずに、楽器の基本的な奏法をゆっくりじっくりと練習しなさい、という他の楽器全般にもいえる至極当たり前のことが何度も力説されていますが、このような天才的なプレイヤーの発言となると非常に説得力があります。
付録としてキーボード、ベースと組んだスタジオ・セッションの様子も収録されています。
June 07, 2006
Hermeto Pascoal & Aline Morena: Chimarrão com Rapadura
70歳のエルメート・パスコアルが40歳以上年齢の離れた新妻アリーネ・モレーナと組んだデュオ・アルバムの新作はかなり大変です。98%二人だけの演奏ですが、数え切れないくらい大量の楽器を駆使しての多重録音に驚かされます。ミキシングも含めて相当細かい仕事をしていることが見受けられますが、音を重ねている割に「隙間」も多く残しているところが独特です。ヴォーカル・パートも多重録音を駆使する事によって最大10声以上の分厚い響きを作っていますが、マニアックなまでに複雑な和声による多重録音コーラスは聞き物です。
ブラジル音楽を基調にして、調性から無調性、楽音からノイズ、規則性と不規則性の領域を自由自在に行き来しますが、全体を覆う「音楽的躁状態」が印象的です。
エルメートの天才的な音楽性は良く知られていますが、親子くらいに歳の違うアリーネがエルメートと対等に渡り合っているのも驚異的です。音楽的な相性もぴったりでエルメートの狂気がそのままアリーネに乗り移ったような印象を受けます。
このアルバムはCDとDVDの両フォーマットで発売されていますが、実はDVDが素晴らしいです。
(ジャケット画像が発売元へのリンクになっています)
スタジオでの多重録音の風景を映像にも収めていて、このDVDではそれぞれのテイクの映像が組み合わされて音源と結びつけられているのです。幾重にも多重録音が行われている場面ではエルメートやアリーネが画面中で増殖するような効果も面白いですし、どのように多重録音が行われているのか資格で確かめる事も出来ます。
アリーネの狂った演奏っぷりもおかしいですし、体中に大量の紙コップ、カスタネットなどをくっつけてタップしながら音を出す無理矢理ぶりにも唖然とします。スタジオに水を張ってのウォーター・ドラムや変な鳴き声のするぬいぐるみ、マウスピースを取り付けたヤカンの演奏映像などが、通常の楽器の演奏の映像と組み合わされるのも痛快です。
圧巻はアリーネがモーツァルトの「夜の女王のアリア」を歌うところでしょう。非クラシック的なアプローチでこの難曲をエキセントリックに歌う様もものすごいですが、モーツァルトの原曲とは全く関係のないフリー・ジャズ的なピアノの多重録音によるエルメートの演奏が刺激的です。
ちなみにこの曲で夜の女王の雰囲気を出すためか、アリーネが黒いマントを羽織って演奏しているのがユーモラスです。
どうでもいいことですが、演奏中のエルメートの寄り目が気になります(汗
January 24, 2004
Lenine: O dia em que faremos contato
このアルバムの邦題は「未知との遭遇の日」、そしてジャケはかなり「ビミョー」なSF風(汗)。でもそんなチープな第一印象とは裏腹に肝心な音楽は最高すぎます。レニーニが掻き鳴らす激しいアコギの音色と、マルコス・スザーノのパンデイロから生まれるパワフルなグルーヴを中心としたサウンドを聞いていると、ジャケどおり心が宇宙空間へと「飛んで」いきます。
もちろんレニーニの曲自体もとてもヒップですし、グルーヴィーな曲の間にひっそりと挟まれたバラードの抑えられた熱情も聴き手の心を捉えます。
そんなこの上なくカッコいいアルバムなのですが、どうしても気になる所が。。。
アルバムの最後の方にレニーニとマルコスの二人だけの演奏による本当にしびれる曲があるのですが、その曲の終わりの方で「マンゲー、マンゲー、マンゲー、マンゲー・・・」としつこいくらいに連呼する箇所があって、そこで思わず我に返ってしまうのです(涙)
歌詞を見てみると「Mangue」と書いてあります。つまりそのまんまですね。。。
空耳アワーに投稿したくなるくらい秀逸なネタです。
January 19, 2004
FERNANDA PORTO
帯にはBOSSA & BASSなんて書いていますが、まさにこのアルバムのサウンドはそんな感じです。ボサノバとDRUM'N'BASSを掛け合わせたようなサウンドがグルーヴィーででもオシャレな感じです。Sambassimがとにかく異様にカッコいいのですが、さりげなく収められているジョビンのSó tinha de ser com vocêもなにげに凄いです。DRUM'N'BASSのリズムが見事にフィットしていて始めはジョビンの曲だと気付かなかったほどです。そして主役であるヴォーカルのフェルナンダ・ポルトの軽やかな歌声ももちろん素晴らしいです。全体を斜めに区切る階段をうまく配したジャケットのデザインもなかなかいいですよね。
January 12, 2004
Gal Costa canta Tom Jobim
ガル・コスタがジョビンの作品ばかりを歌ったライヴの録音です。最近この2枚組のアルバムをヘビーローテーションで聴きまくってます。
納涼音楽としてのボサノバではなく、魂の歌としての「熱い」ボサノバをたっぷりと味わえます。ガル・コスタの歌声は力強く魂に満ちあふれ、ジョビンの作品に秘められた情熱的な要素を引き出すことに成功しています。バックバンドのアレンジはジョビンのオリジナルよりやや硬質なリズム、音色でキューバ風なテイストも若干入っていますが、この演奏がなかなか良かったりします。
ジョビンの名曲が畳みかけるように次々と繰り出されますが、24曲飽きることなく一気に聴いてしまいます。Chega de SaudadeやA Felicidadeでは客席を巻き込んでの大合唱となりますが、圧巻はSe Todos Fossem Iguais a Vocêです。3分少しの演奏時間に人生の全てを詰め込んだかのような絶唱に全ての聴衆が熱狂的に答えているのがよく分かります。
ちなみにこのライヴはDVDでも発売されていますが、こちらもお勧めです。
December 12, 2003
Tom Jobim : Inédito
この2枚組のアルバムはジョビンの60歳の誕生日を祝うために制作されました。彼のごく親しいミュージシャンとリラックスした雰囲気の中で録音された演奏なので気張った所が全くなく、彼の音楽の素晴らしさをストレートに楽しむことが出来ます。
ピアノ、ギター、フルート、チェロ、弦楽オーケストラ、女声コーラスといった彼の音楽の定番の音色がお約束通り揃っていて、超メジャーな曲から、レアな作品まで多彩な彼の作曲スタイルを味わうことが出来ます。
ジャケのデザインは全くいいとは思いませんし、変なボックス仕様のケースも扱いにくいこの上ない迷惑なつくりなのですが、ブックレットの写真はとても美しいです。
ジョビンの数あるアルバムの中ではあまり知られていないものだと思いますが、内容はとてもいいです。現在手に入りにくいようですが、ひとりでも多くの人に聴いてもらえればと思います。
June 01, 2000
Antonio Carlos Jobim: Antonio Brazileiro
アントニオ・カルロス・ジョビンAntonio Carlos Jobim は言わずと知れたボサノヴァの作曲家である。
彼の曲に限らずブラジル音楽が大好きな私が彼の音楽に親しむきっかけとなったのは「島唄」などのヒットで知られる THE BOOM の音楽である。彼らの6枚目の大傑作アルバム「極東サンバ」ではアルバム全編にわたってサンバやボサノヴァなどのブラジル音楽の要素が取り入れられているが、このバンドのヴォーカリストであり、このバンドのほとんどの曲の作曲者である宮沢和史がジョビンの音楽にも影響を受けていることを知り、ジョビンの遺作となってしまったラスト・アルバム「ANTONIO BRASILEIRO」を買ったことが彼の音楽との出会いである。
ジャン、というギターの短い和音、そしてちょっとたどたどしいけれども味のある、ジョビンの歌声に導かれて軽快なリズムが始まり、やがて女性コーラスや小編成のストリングスが加わっていく絶妙な展開や、ジョビンの曲のトレードマークとも言える凝りに凝っていても嫌味に聴こえない和声進行など、始めの1曲で私はジョビンの音楽の虜となってしまった。
そしてしばらく聴いていくと別の歌声が・・・(しかも超うまい)
クレジットを見るとそこには、スティングの名が・・・
えっ、と思いもう一度良く見てみるとベースにはジャズ界の大御所ロン・カーターの名前も発見!!
やっぱりこのオッサンは偉い人だったんだと納得。
かと思えば、孫くらいに歳の離れたジョビンの娘のあどけない声が聴こえて来たりと、有名であろうがなかろうが、自分の音楽に共感してくれる人なら誰とでも一緒に音楽しようという、彼の飾らない人柄が窺え、ますます彼の音楽に惹かれていくことに気付く。
このアルバムの中には一般的なサンバやボサノヴァのイメージからかけ離れた、ちょっとクラシカルな要素を含んだ曲もさりげなく収録されていて、このアルバムを聴き終わる頃には「ジョビン様、参りました」状態に(爆)
ちなみにこのアルバムの最後の曲がなんとなくスティーヴ・ライヒの「ディファレント・トレインズ」に雰囲気が似てたりする(たまたまでしょうが)
こういう訳で彼の音楽にはまってしまった私は、当然のように彼の他のアルバムを聴いたり関連ミュージシャンの作品に触れていく内にジョビンだけでなくブラジル音楽全体のファンとなってしまった訳である。
